
株式譲渡所得の計算では、譲渡主体の違い(個人か法人か)によって取扱いが異なる部分もあります。このように、株式を譲渡した際に発生する譲渡所得の計算方法や確定申告、株式の事前とりまとめなどの各論点を解説します。
ここでは、項目ごとに個人株主と法人株主の場合の株式譲渡課税の違いについて解説します。株主を譲渡する株主が個人であるか法人であるかによって、課税時に取り扱いが異なる点がいくつかありますが、株式譲渡所得の計算方法については、どちらも「株式譲渡所得=譲渡収入−株式の取得費―譲渡費用」といった計算式となり、基本的な考え方は同様です。
株式譲渡所得の認識時点は、引渡日を原則となっていますが、例外として契約の効力発生日とすることも認められています。
契約の効力発生日とは、単純に契約締結日を指すのではなくて、その契約が効力を生ずる日を指します。株式譲渡契約書締結日と株式引渡日を一定期間あける場合には引渡日までの義務などのクロージング条件を課し、引渡日にこの条件を満たしていることを双方が確認を行って初めて株式譲渡が実行されるため、このようなケースでは契約の効力発生日と引渡日は同一日になります。
つまり、実務上は株式譲渡契約書上クロージング条件が課されている場合には、引渡日と契約の効力発生日は同一日になります。
このようなケースの場合、引渡日は令和8年3月、契約の効力発生日も令和8年3月となり、所得の認識時点は令和8年3月となります。
個人株主の株式譲渡所得の金額の計算では、株式の「実際の取得費」と「譲渡収入×5%」のいずれか大きい金額を「取得費」とすることができます。財務体質がよく株価が高くつくような譲渡企業の株式譲渡の場合には、「譲渡収入×5%」を取得費とした方が有利となるケースも多いため、税額の計算上注意しなければならないポイントになります。また、株式の「実際の取得費」と「譲渡収入×5%」のいずれか大きい金額を選択することができる取り扱いは、実際の取得費が不明な場合だけではなくて、実際の取得費が明らかな場合にも適用することができます。
(ただし法人株主が株式を譲渡する場合には適用することができません。)
実際の取得費に含まれるものの例は下記の通りになります。
※上場株式と同様に、支出した実額が「取得費」になります。
基本的には、払込金額(または現物出資評価額)が取得費となります。
申告期間、納付期間は下記の通りになります。
申告期限と同じ日(3月15日頃)が納税期限です。
一括納付が原則ですが、口座振替を申し込めば4月中旬頃に自動引き落としが可能になります。
取得費加算の特例とは、相続や遺贈で取得した財産(不動産・株式など)を譲渡したとき、相続税で課税された部分を譲渡所得の取得費に上乗せできるという内容になります。相続税を既に支払っている財産を売却した場合、何も調整を行わなければ「相続税+譲渡所得税」で二重課税になってしまうため、二重課税になるのを防ぐために調整する趣旨になります。
加算できる相続税額は、その財産に対応する相続税額を「按分」して求めます。
相続税のうち、売却した財産に相当する部分のみを取得費に加算できる仕組みです。
確定申告でこの特例を使う場合、次の書類が必要になります。
これらを添付して、譲渡所得の申告をします。

譲渡費用とは、株式を譲渡するために直接かかった費用のことです。
譲渡所得の計算式は下記の通りとなります。
譲渡費用が大きいほど課税所得が下がり、税金も少なくなります。しかし、譲渡株主の株式譲渡所得の金額の計算上、譲渡費用とされるものは限定的です。
譲渡費用として含めることが認められない費用は下記の通りとなります。
譲受企業の諸費用のうち、取得の意思決定時点以後に発生した仲介会社への中間報酬や監査実施者への監査報酬などは、案件が成約すれば「関係会社株式」として株式取得代金と成功報酬とともに資産計上しますが、案件が破談すれば損金経理します。このように、案件の成約の可否によって処理方法は異なります。
非上場企業のM&Aでは、対象会社の株主が複数存在する場合が多く、そのまま譲渡契約を締結すると手続きが複雑になったり、後から株主の同意を得られなかったりするリスクがあります。
事前株式の取りまとめの目的は下記の通りになります。
M&Aでの売買を除く個人間の非上場株式の売買の場合、財産評価基本通達による算出株価が適性価額とされて、買収者に立場に応じてその価額が異なります。
株式の買い手が会社や主要株主(議決権50%超)の同族であるため会社支配に影響せず、また市場性が低いため割引を控えめに評価するケースが多くなります。この場合、原則的評価額を適正価額として考えることが多いです。実務的には、この金額よりも低い旧額面金額等での買取りも行われていますが、この場合は同族株主側に原則的評価額との差額について贈与税の課税リスクがあります。
会社の従業員数、純資産、売上高に応じて会社の規模区分を決定し、その区分に応じて、純資産と類似業種比準価額の2つの割合を変えて計算し、小規模な会社ほど純資産の割合を大きく、大規模な会社ほど類似業種比準価額の割合を大きくします。
少数株主は、会社の意思決定に影響できないため市場性が低い株式を取得することになり、適性価額は配当還元価額であるといえます。
過去2年間の配当金額を基に計算して、通常は原則的評価額よりも低くなります。
会社法上の「特別支配株主による株式等売渡請求制度」(会社法179条〜)の内容になります。いわゆる「スクイーズアウト」の一種で、M&Aや組織再編時に使われます。発行済株式総数の90%以上を保有する株主である特別支配株主が、会社を通じて他の少数株主に対し、自分に株式を売り渡すよう請求できる制度になります。要するに、少数株主は強制的に株式を現金化され、会社から退出させられる仕組みで、手続の流れは下記の通りです。
売価価格は、「公正な価格」でなければならない(会社法179条の8)とされており、類似業種比準価額方式や純資産価額方式、DCF法など将来収益を反映した方法が取られることが多いです。
また少数株主の救済として、価格に不服がある場合は、売渡株主は裁判所に「売渡株式の価格決定の申立て」をすることが可能です(会社法182条)。これによって、買取価格が公正かどうかを司法判断で争うことが可能となります。
いかがでしたか?
株式譲渡所得の各種論点についてお話ししました。
この記事が皆様にとってお役に立てば幸いです。